金属部品の製造において、立体的でつなぎ目のない形状を作り出すことができる「絞り加工」。自動車部品から日用品、電子部品に至るまで幅広く活用されている重要な加工技術です。しかし、プレス加工の中でも特に難易度が高く、「不良が出やすい」「金型コストが高い」といった課題を抱える設計者・調達担当者の方も少なくありません。
本記事では、絞り加工の基本的な仕組みや種類、メリット・デメリットといった基礎知識を網羅的に解説します。さらに、絞り加工の課題を解決するための「形状変更・代替工法(精密抜き・曲げ加工)」という新たな選択肢についてもご紹介します。
1. プレス加工における「絞り加工」とは?
絞り加工の基本的な仕組み
絞り加工とは、金型(パンチとダイ)とプレス機械を使用し、1枚の平らな金属板(ブランク)に圧力をかけて、底のある円筒形や角筒形など、立体的で容器状の形に成形する塑性加工の一種です。コップの上に置いた紙を、上から指で押し込んでコップの形に沿わせる様子をイメージすると分かりやすいでしょう。金属の性質を利用して、溶接などの接合工程なしに立体的な形状を作り出します。
絞り加工の基本構造(パンチ・ダイ・シワ抑え)
一般的な絞り加工は、主に以下の3つの要素で構成された金型とプレス機を用いて行われます。
- ダイ(凹型):中央に穴が開いた下側の金型。
- パンチ(凸型):金属板をダイの穴の中に押し込んでいく上側の金型。
- シワ抑え(ブランクホルダー):加工時に材料の周辺部が浮き上がり、シワができるのを防ぐための抑え板。
ダイの上に置いた金属板をシワ抑えで適切に押さえ込み、上からパンチを下降させてダイの凹部へ材料を押し込んでいくことで、板材が伸びながら引き込まれ、立体的な側面と底面が形成されます。
一般的なプレス加工(抜き・曲げ)や張り出し加工との違い
プレス加工には「抜き加工」「曲げ加工」など複数の種類がありますが、絞り加工は金属板を立体的な「容器状」に深く成形する点が大きく異なります。
また、同じ立体成形でも「張り出し加工」とは原理が異なります。張り出し加工が金属の伸びる性質を利用して「板厚を薄く伸ばしながら」成形するのに対し、絞り加工は金属板の縮みと伸びのバランスをコントロールし、「板厚を極力変えずに(引き込みながら)」深く成形する点に特徴があります。
2. 絞り加工の主な種類
浅絞りと深絞り
製品の直径(または対角線)に対して、絞る深さの割合によって呼び方が変わります。
- 浅絞り:製品の直径よりも深さが短い加工。比較的難易度が低く、一度の工程で成形できることが多いです。
- 深絞り:製品の直径よりも深さが長い加工。一度で絞り切ることは難しく、複数回の工程(再絞り)を重ねて徐々に深くしていく高度な技術が求められます。
形状別の種類
- 円筒絞り:最も基本的でポピュラーな加工です。飲料缶や電池ケースなどに用いられます。
- 角筒絞り:四角形に絞る加工です。コーナー部分に力が集中するため、円筒絞りよりも割れやしわが発生しやすく、難易度が上がります。
- 異形絞り:楕円形や左右非対称など、複雑な形状に絞る加工です。高度な金型設計技術とシミュレーションが必須となります。
3. 絞り加工によく使われる材料
絞り加工の成否は、材料の「伸びやすさ(延展性)」や「深絞り性(r値)」に大きく左右されます。
| 材料名 | 特徴と加工性 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 深絞り用鋼板(SPC材:SPCE、SPCFなど) | 冷間圧延鋼板の中でも、特に絞り加工用に加工性を高めた鋼板。 | 自動車の車体・家電製品など |
| アルミニウム・アルミ合金(A1050、A3003など) | 軽量で柔らかく、伸びが非常に良いため絞り加工に適している。 | キャップ・缶・バッテリーケースなど |
| ステンレス(SUS304など) | 耐食性・耐熱性に優れるが、加工硬化が著しく硬くなりやすいため、割れやスプリングバックが発生しやすい難削材。金型構造の工夫や高圧プレス設備が必要。 | 耐熱容器・耐食用精密部品など |
| 黄銅・銅(C2600など) | 伸び特性が非常に優れており、滑らかな絞り成形が可能。 | 端子部品・装飾品・弾薬の薬莢など |
4. 絞り加工のメリットとデメリット
絞り加工のメリット
最大のメリットは「つなぎ目(溶接跡)のない一体成形ができること」です。溶接を行わないため、液漏れや気体の漏れがなく、高い密封性が求められる容器やケースに最適です。また、金属の継ぎ目がないことで製品全体の強度が高く保たれます。順送型(プログレッシブ)やトランスファープレス機を用いることで、1分間に数十〜数百個というハイスピードで連続生産が可能なため、一度金型を作ってしまえば、大量生産における生産性が非常に高いのも魅力です。
絞り加工のデメリット
一方で、「初期費用(金型代)が高額になりやすい」というデメリットがあります。特に深絞りや複雑な形状の場合、複数回のプレス工程が必要になるため、その分の金型費用が高額になってしまいます。また、後述するようにプレス加工の中で加工調整が難しく、金型の完成までに多大なトライ&エラー(時間とコスト)を要する傾向があるため、小ロットや試作のみの場合は1個あたりの単価が高くなってしまうことがあります。
5. 絞り加工はなぜ難しい?代表的な不良と課題
しわ・割れ・くびれが発生しやすい
絞り加工は、プレス加工の中でも特に不良が発生しやすく、熟練のノウハウが必要です。代表的な不良として以下の3つが挙げられます。
- 1. しわ:金属板が金型に引き込まれる際、余分な材料が波打ってしまう現象です。しわ押さえの圧力不足などが原因で発生します。
- 2. 割れ:パンチで押し込む力に材料が耐えきれず、底抜けしたり、フランジ部が破断したりする現象です。
- 3. くびれ(ネッキング):材料が部分的に薄くなり、反りやくびれが発生する不良です。割れの前兆としても現れます。
高い技術力とトライ&エラーが必要
これらの不良を防ぐためには、金属材料の特性(変形しやすさを示すr値など)を正確に把握し、パンチとダイの隙間である「クリアランス」をミクロン単位で調整する必要があります。加圧力、潤滑油の選定、金型のR(丸み)形状など、無数の変数を最適化しなければならないため、立ち上げのハードルが非常に高い加工と言えます。
6. 絞り加工の可能性とJKBの強み
絞り加工は、ミクロン単位の精度や気密性が求められる現代のモノづくりにおいて、自動車・電子機器・医療機器など多様な分野の高性能化・軽量化を「継ぎ目のない立体形状」で支える不可欠な技術です。
しかし、絞り加工において品質を最終的に左右するのは、プレス機の性能以上に、材料の変形挙動や応力集中を完全に見越した「金型設計の構造」と「高精度な金型そのもの」が果たす役割です。
プレス機の性能を超える「金型設計力」と「最高精度の設備」
JKBでは、長年培った高度な設計ノウハウにより、他社では割れやシワが発生してしまうような高難易度の絞りにおいても、最適な工程設計と「極小クリアランス」を導き出します。さらに、恒温室に配置された世界最高精度の工作機械・測定器を駆使し、ミクロン台の超精密絞り加工に対応しています。
→ 絞り加工の実績を詳しく見る:丸め・絞り加工の技術事例
7. 絞り加工の課題を解決する「代替工法・形状変更」のすすめ
「絞り加工は初期コストも高く、加工できるメーカーも限られている…」そうお悩みの場合、一度設計の根本に立ち返ってみることをおすすめします。それは「その部品は、本当に絞り加工でなければならないのか?」という視点です。
「本当に絞り加工が必要か?」を見直す
もし、その部品に「絶対に液漏れしてはいけない(気密性が必要)」という条件がないのであれば、精密な「抜き加工」と「曲げ加工」の組み合わせで代替できる可能性が大いにあります。
他工法への転換によるコストダウンと精度向上
例えば、絞り加工で作ろうとしていた箱型の部品を、展開図の状態で高精度に「抜き」、それを精密に「曲げ」て箱型にする設計(VA/VE提案)に変更したとします。これにより、高額な絞り用の金型や複数工程を削減でき、大幅なコストダウンや開発期間の短縮が実現できるケースが多数存在します。また、無理な絞りによる板厚の減少やひずみを回避でき、結果的に高い寸法精度を保つことにも繋がります。
8. 精密な抜き・曲げ加工ならJKBにお任せください
絞り加工を想定していた部品や、他工法(切削・エッチングなど)でコストが見合わずに困っている部品を、当社の得意とする「精密抜き加工」「精密曲げ加工」で実現可能な形状へ落とし込む、VA/VE(価値分析/価値工学)からのご提案を得意としています。
JKBの精密プレス(抜き・曲げ)の強み
高難易度な箔材・複合曲げに対応
板厚3µm(0.003mm)からの極薄材加工や、積み上げ誤差が生じやすい複数回の曲げ加工においても、精緻なスプリングバック計算により高い平行度を確保します。
「順送プレス」による高品質×高生産性
高精度な金型内で連続加工を行う順送プレスを採用し、社内不良率をゼロに近づける自社開発の特許取得システム(品質管理・金型メンテナンスシステム)を活用。高品質な部品の大量生産・コストダウンを実現します。
→ 工法転換の課題解決事例を見る:課題解決事例 – 低コスト化
9. まとめ:部品の加工・コストダウンはお気軽にご相談を
絞り加工は、つなぎ目のない立体形状を作り出す素晴らしい技術ですが、コストや加工難易度の面でハードルが高いのも事実です。もし部品の調達や量産化で行き詰まった際は、「形状を工夫して、抜き・曲げ加工で代替できないか」という視点を持ってみてください。
株式会社JKBでは、研究開発用の試作から数百万個単位の量産まで、ロットの大小を問わず一貫して対応しております。「この図面、絞り加工じゃなくても作れる?」「他工法からプレス加工へ転換してコストを下げたい」といったご相談がございましたら、ぜひ開発の初期段階からお気軽にJKBへお問い合わせください。お客様の課題解決に最適な工法・形状をご提案いたします。
